肛門周囲膿瘍は主に赤ちゃんの肛門のそばにできる赤いおできで,さわると痛がります.黄色い膿(うみ)が出てくることもあります.赤ちゃんの肛門の内側にはポケットのような襞(ひだ)があります.このポケットの中には細菌がたまりやすく,細菌が繁殖すると炎症を起こして肛門周囲膿瘍になってしまいます.肛門を下から見て腹部方向を12時とすると,3時と9時方向,つまり側方発生が多いです.男児に圧倒的に多く難治性で何度も繰り返しますが,1歳4カ月頃には自然治癒する傾向があります.
肛門周囲膿瘍の治療の変遷は,以下の通りです.
2000年頃までは,抗生物質を投与し,膿瘍を大きく切開し排膿する「切開法」が原則でした.外来で局所麻酔下にあるいは手術室で全身麻酔下に膿瘍を紡錘状に切開し,その後は切開創が閉鎖しないように創部の掻爬(そうは)が必要でした.処置を行うと,便,血液,膿とともに赤ちゃんの泣き声が飛び交っていました.連日の処置が続くため,赤ちゃんや保護者の負担が大きく医師も疲労困憊していました.
2000年頃から,「圧迫法(=揉み出し法)」が行われるようになりました.圧迫法では,膿瘍を大きく切開しません.膿瘍表面を穿刺するか2-3mm程度の小切開を行います.膿瘍と思われるしこり全体をつぶすような感覚で揉みます.お尻全体をつねるようにつまむと,膿が切開孔あるいは肛門から出てきます.穿刺あるいは小切開は医療機関で行いますが,圧迫(=揉み出し)は自宅で家族の方に1日2-3回実施してもらいます.赤ちゃんは痛がって泣きますが,継続が必要です.患部の清潔は必要なので排便後はぬるま湯でよく洗浄しますが,特別の消毒やガーゼなどは不要です.再発したら,また同じように圧迫(=揉み出し)を行います.これを繰り返すうちに,自然治癒が期待できる1歳過ぎを迎えます.
同じ頃より,圧迫法に加えて「十全大補湯」の投与が行われるようなりました.十全大補湯には,従来から,液性および細胞性免疫賦活作用,マクロファージ活性化作用,骨髄賦活作用などの薬効があることが知られていました.十全大補湯の内服により消化管における免疫能が増強し,膿瘍の再発を防いでくれます.排膿が治まってからも2カ月間程度服用を継続する必要があります.十全大補湯は発症直後の排膿よりも,むしろ排膿後の再発予防に有用です.
2010年以後,「排膿散及湯」が肛門周囲膿瘍に使用されるようになりました.排膿散及湯は,癰(よう),せつ,面疔(めんちょう)などの皮膚化膿症に効能があることが知られていました.排膿を促し,さらに鎮痛作用があります.排膿散及湯は肛門周囲膿瘍の発症直後に有用で,1-2週間程度服用します.
漢方療法の導入により,肛門周囲膿瘍の治療は大きく変化しました.従来の抗生物質の投与や切開法はあまり行われなくなって来ています.現在では,発症直後に排膿散及湯を1-2週間服用します.十全大補湯を併用することもあります.必要に応じて圧迫法(=揉み出し法)を行います.一旦排膿した後には,再発予防のために十全大補湯を数週間から数カ月間継続的に服用します.再発した場合には,これを繰り返します.1歳過ぎ,遅くとも1歳4カ月には自然治癒するのを待ちます.
肛門周囲膿瘍は,治りにくい病気です.治ってもまた再発することがあります.おしりを清潔にし,辛抱強く治療を続けることが大切です.